萩研的『残酷』支援計画2001
theme 01: the Name of Love
   
[はじめに]

 私の手元に、LAREINA RULE著『NAME YOUR BABY』(BANTAM BOOKS刊)という一冊のペーパーバックがある。英語圏の各国で出版されている、いわゆる「名付け辞典」である。
 この本で『残酷な神が支配する』の登場キャラクターの名前の意味を引いてみようと思い立ったのは、1998年。コミックスでいうと13巻収録のあたりをプチフラワー誌上で連載中の頃である。ナターシャの懺悔、ジェルミの告白、イアンの混乱、マージョリーの自殺未遂…と、まさに物語は最高潮に混迷を極めていた。
 萩尾望都という作家の才能はあまりあるものであり、必ず納得の結末にたどり着くとわかってはいても、一読者としてどんな結末であれば「納得」があるのか想像すら当時はできなかった。
 そんな中、たまたま「IAN」という名をこの本で引いてみようと思いついた。まったく気軽な気持ちだったのである。この名付け辞典は“辞典”と称するのもいささかはばかられるような簡素な造りの本であったし、内容的にも(その名の起源となっている語句や聖人の故事などからイメージされたものであるらしい)「●●という名は××語で△△の意」といった風にシンプルに「その名の意味」が列記されているだけである。初版1963年と相当に古いものでかなりの版も重ねているようだが、だからといってどれだけ普遍性があるのかわからない。私としても特にそこに何かあるとの推測や目的意識があったわけではなかった。
 きっかけは、そんな気軽な思いつきだったが「IAN」の意味は私に予想外の興味を抱かせ、他キャラクターも調べてみようという気持ちにさせた。そしてそこに次々と現れる「意味」は、この物語がすでに“登場人物名”によって最初から方向付けられていることを私に思い知らしめたのである。
 そこに作者的事前の意図はなく、ただの偶然なのかもしれない。それでもかまわないし、偶然であるならそのほうがよほど、萩尾望都という作家の類い希な創造力を示すとも言えるかもしれない。
 今回発表にあたり「考察」とタイトルをつけ私見による短文を併記したが、むしろ考察よりも「この名にこの意味がある」という発見のほうに、今回の発表の第一義的目的がある。できれば見ていただく方には(付記された一考察にこだわらず)その意から自由に自身の発想で解釈を広げていって欲しいと思う。『残酷な神が支配する』という物語をよりいっそう楽しむことの助力になれば幸いである。

*テキスト版とフラッシュ版の二種があります。内容のみを簡潔に読み進みたい方はテキスト版を、お時間に余裕のある方はフラッシュ版をどうぞ。

テキスト版     フラッシュ版(1.2MB)

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担当研究員:
岸田志野(planning, art direction, text & all of FLASH VERSION)
小西優里(design work & layout of TEXT VERSION)、萩尾望都研究室

参考文献:LAREINA RULE『NAME YOUR BABY』(c)BANTAM BOOKS
使用素材:FLASH VERSION: (c)'Aaron'sTools'(http://www.aaron.ne.jp/tool/)、PHOTOGRAH: 'Art Explosion 250,000+Images'(c)1997 Nova Development Corporation

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update: 2002/3/29 (フラッシュの改訂版を5/20にUP)