月の岩屋【萩尾研究ワークショップ】 theme 01: Keyword Rally PART2

date: 2000/7/8―12/24

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keyword No.16
レコード

 こんにちは!卯月もよです。「レコード」といえば「新記録!」なんて言うあなたは、まだオリンピックの余韻の中にいますね? 萩尾作品では、現在連載中の「残酷な神が支配する」が新記録を更新中です。今後描かれる作品を含めても萩尾作品中での最長編作品になるでしょうし、内容的にもこれまでの萩尾作品の集大成とも言える充実ぶりを示しています。
 CD世代の方にはわからないかもですが、前世代の音盤「レコード」って傷を付けると厄介だったんですよ。ここのところの「残酷な〜」のジェルミを見てると傷ついたレコードのようです。心のレコード(過去の記録)に大きな傷がついていて、何度回しても針がひっかかり音が飛んでる。そこにこそ大事なフレーズがあるのに・・まだ聴けない・・・・と、レコード話を残酷話にすり替えるかと思いきや、いやいや、司書的に「レコード」とくれば、これっきゃないっ!! 1979年ビクターから発売されたLPレコード「萩尾望都1.エトランゼ」です! 知る人ぞ知る萩尾さん作詞作曲なおかつ“歌”!の レコードであります。「1」ってところが意味深で「2」が出なかったのが、ちと惜しい。まぁこの音楽的作業を終えて萩尾さんは「二度と本業から道をふみはずしてはアカン、と、かたく心に誓った」そうなので・・・・。8曲のうち秀逸は世評?通り「アシスト・ネコ」でしょう。“少女マンガ家がネコを飼うのは、一説には、修羅場にアシスタントをさせるためだともいいます。”というナレーションで始まり、少女漫画家にはもれなくネコが付いてるワケを修羅場の描写にのせて軽快に歌っておられます。♪ひろって育てた恩を今こそ 愛する主人に返す時♪・・・ン?
 他に萩尾さん作詞の歌の入っているLPとして、77年のビクター「恋の水絵具」、 79年ニューエレック発売「かざぐるま」がありますが、これらは複数の少女漫画家の詞に作曲家が曲をつけたものを女性歌手が歌っています。 LPって当時で2500円位してまして学生の財布にはきつかった。しかも画集などもよく発行されていた時代で、私は「LPは一切買わない」決意をするしかなかったのです。レンタルレコードっていうシステムもなかったんですよ。こうしてみると私も長く生きてるんですねぇ、時代の変遷を体験しちゃってるわけね。・・・・なんて感慨に更けるのも無理はなく。十数年ぶりに漫画マニア生活に復帰したのはパソコン通信がきっかけだったし、「エトランゼ」の存在を思い出したのは初めて参加したオフ会(宝塚の手塚治虫記念館での「残酷な〜」原画展鑑賞オフでした)で録音カセットを聴かせていただけたから。でもLP自体を今更手に入れようなんて到底無理・・・と諦める必要もなかった! 今や中古漫画市場は確立され、漫画と共にこういったレコード類もわずかながら流通し、ネットで検索さえできる時代になっていたのでした。その恩恵を受けられる幸せよ。20年前におこづかいはたいて買ってくれてた少女達に感謝感謝。

城野イラスト「レコード」

 

No.16 text:卯月もよ illustration:城野ふさみ keyword:天野章生 2000/10/7
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keyword No.17
ドレス

 ちゃぶ台でご飯を食べていたちょっと昔の女の子にとって、ドレスは西欧文化への憧れと変身願望の象徴でした(今も?)。 “ある日少女の元へ突然の贈り物。箱の中には素晴らしいドレスが。お姫さまのように美しく変身した少女はパーティで賞賛を浴び、贈り主との恋も成就しメデタシメデタシ・・・” この王道パターン、萩尾漫画になさそうでありました。もちろん変則わざで。 まずは『ゴールデンライラック』のヴィーとスティーブンス男爵のエピソード。贈られたドレス一式をみごとに着こなしてオペラに出かけたヴィーは自分が<クジャクの羽根をつけたカラス>だと気づいて悔し泣き、男爵の求婚をこの場では断ります、が後には良い夫婦に。その夫の葬儀に、似合わないからと黒い喪服を着ず、紫色のドレスを着る彼女がとても印象的。すでに13才の時、国王の服喪にもゴージャスなライラック色のドレスを着て、一番いい服を着ることが故人に礼をつくすことにもなると超然としていたプライドの高い少女でした。 『この娘うります!』のドミにドレスを贈ってくれたのは女友達でしたが、その真っ赤な肩の開いたドレスを着た日から彼女の人生、怒濤の展開。赤いドレス(とお酒)で“変身”中に出会ったクラビーと、翌日偶然お互いに“変身中”に再会。クールな彼も、雪の中で赤いコートを着ているドミに心奪われ、やがて二人はメデタシ・・、火星(赤い星)の話などして、ラストまで赤で締めてある・・・というのは考えすぎ?
 モデルクラブの面々を巡るお話だけに“ドレスで変身”だらけのこの作品中の特筆は、男装の美女プランタンが、ドミのパパの作った白いドレスを着ているシーンではないでしょうか。そのワンカットで、パパとプランタンの関係だけでなく、ずっとドミの服を作ってきた子供服デザイナーのパパとドミの関係の変化をも、なんと雄弁に語っていること。
 “服を作る男性+彼の理想のモデル”というのは『ママレードちゃん』にもあります。ボーイッシュな女の子が彼のドレスを着るとかわいい少女に変身!の“変身”パターンがちゃんと盛り込まれています。しかし初めて着た彼の服が「喪服」っていうのはユニーク。
 というところで最後に一言。服飾史、服飾デザインに関して知識とこだわりある萩尾センセですよ、「ドレス」に対しこの字数制限はきつかった。いつの日か字数制限のない所でお目にかかりましょう!!

城野イラスト「ドレス」

 

No.17 text:卯月もよ illustration:城野ふさみ keyword:小西優里 2000/10/15
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keyword No.18
スランプ

 コミックスに収録されていない作品のことを話題にするのはアンフェアだが、「スランプ」と言われて最初に思いついたのが『まんがABC』(別冊少女コミック74年6月号掲載)の「S」の項にあったんじゃ?ということだったんだが、見てみたら「S」は「SF」だった。私がスランプの記事だと思っていたのは「L:LOVE」で、仕事への愛を語っておられた。“今は すこし つかれて きて 気がつくと まったく 感動なく 自動機械のように ペンをはこんでるので ぞっとする”(同号229p) 
 これを読んでぞっとしたのはファンの方だ。当時は週刊誌のほうで『トーマの心臓』を連載中で、アンケートが悪くて連載をうち切られそうだったのだ。トーマ連載開始直後の不発で一番苦しい時期にこの『まんがABC』を執筆されていたと推測できるのだが、この作品自体もかなりの割合がアシスタントの筆になるもので(それが単行本に収録されない理由の1つかと考えられる)、萩尾さんスランプなの?どうなってるの?トーマはどうなるの?と心配したした(ここで頷いた人はEnterキー、「へ〜」と思った人はSpaceキーを押して下さい。集計します)。
 「スランプ」って言葉は漫画家さんの間でよく使われていたし、シロウト達も自分が何かをうまくできないことの言い訳に大した努力もせずに「スランプだー」なんて言っていたものだ。ま、ちょっとした流行語だったのかな。大人になったら安易にスランプなんて言葉、使えなくなった。レベルの低いところから落ち込んだっていったってね・・・。
 で、萩尾さんはこの時、少なくとも職業漫画家としての商業的立場はスランプだったのだ。萩尾さんが、マニアはラブレターは出してもアンケートは出さない・・と「D:ダービー」の項に書いたように、私たちはいくらユーリの運命に気をもんでも、アンケート懸賞の賞品の幼さに葉書を出すことなんか思いもしなかった。(ここで頷いた人はEnterキー、「へ〜」と思った人は・・・(゜゜)\(--;)ポカッ)あの伝説の「アンケートを出して下さい」というお願い葉書が来るまで・・! しかし『まんがABC』の発表直後に発売なったフラワーコミックスの第一弾『ポーの一族 1』が爆発的に売れたことで、萩尾さんはこのスランプを脱出した。実力は認められた。これまた伝説的なエピソードである。
 その後の萩尾さんは親子関係の悩みが大きかった時期もあり、絵柄の変化に悩まれた様子もありで、幾度かスランプも経験しておられるはずだが、全てを呑み込み漫画の糧となす生命力を見せて下さっていて頼もしい。

城野イラスト「スランプ」

 

No.18 text:卯月もよ illustration:城野ふさみ keyword:岸田志野 2000/10/21
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keyword No.19
プディング

 「プリン」という言葉は「プディング」がなまって日本語化したものですが、今やプリンとプディングは別のお菓子になっています。プリンとは冷やし固めるお菓子だと信じて大人になったのに、その娘はオーブンで蒸してプディングを作っているのであります。美味です。
 同様に、なまって出来た言葉が元の言葉と違う意味を持つようになった例として、「バンパイヤ」と「バンパネラ」が挙げられます。バンパネラの語源は、とある漫画家がバンパイヤを覚え違って使ったためとのことですが、敢えて訂正しようともせず押し通したことで新しい言葉が生まれたのです。バンパイヤ=吸血鬼は人の血を吸う怪物ですが、バンパネラは別種の怪物で、血じゃなくても人間のエナジー(精気)を吸い取ればいいらしいのです。まだ国語辞典に載るに至ってはおりませんが、言葉は生き物です。プリンじゃないわ、プディングってのが正しいのよ、とか、バンパネラなんて言葉はないんだぞ、なんてウカツに言っちゃいけません。
 またバンパネラはたいてい「ポーの一族」という家系に属しているらしいのですが、ポーの一族とはエドガー・アラン・ポーを語源に持つとは言え、思い切ったネーミングであります。日本語的には“ぽー”も“ぼー”もあまり歓迎されない状態なのですからして。
 それに関連して、バンパネラウォッチャーはたいてい「モーの一族」に属しているという説も聞いたことがあります。しかしその名を耳にすることはほとんどありません。なにしろモーの一族の中には人知れず密かに生息している者が多く、すでに人界に紛れすぎて一族であることを忘れてしまった者までいるとの報告もあがっています。ただ、記憶を取り戻した者はちょっとタチが悪いぞというはっきりした記録が「図書の家」というところに集積されています。良く読んで気をつけましょう。
 そのモーの語源となったのが先の漫画家の名前ですが、これも不思議な話です。「もと」という女性名を聞けば75才くらいのおばあさんが思い浮かぶことでしょう。ところが「望都」という漢字を当てただけであら不思議、本名とは信じ難き美しくもおしゃれな良くできた名前ではないか!ということになるのです。音(読み)は平凡でありながら、絵(漢字)によって特殊なイメージを持ったこの名前。ありふれたテーマとソースでも、その手にかかれば独創的な作品と成してしまう魔法使いの名前としてなんとふさわしいことでしょう。
 そんな事どもをカラメルソースのかかったカスタードプディングを食べながら想う秋の午後なのでした。

城野イラスト「プディング」

   

私のつたなくしかもわけわからん文章に4週もおつきあいくださりありがとうございました。室長も毎週ぎりぎりまで原稿をあげない司書に悩まされる週末から解放され、喜びの声をあげたとか。なお、4回の中で書き足りなかった部分は今後の研究課題として大事に抱え込み冬眠態勢に入りますので、あとヨロシクね、みんな。(卯月) 

 

No.19 text:卯月もよ illustration:城野ふさみ keyword:天野章生 2000/10/28
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