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水野英子。少女漫画界のレジェンド、今ある少女漫画の礎を築いたひとりとしてあまりにも大きなその名前。
「図書の家」でも、水野英子研究はこれまでもこれからも鋭意取り組んでいく所存であるのだが、
ここへきて驚愕の事実が発覚。
「私、水野英子作品ってちゃんと読んだことないかも」
「あー私も。凄い人だと言うのは知ってるけど」
「何かきっかけがなくて」等の発言が、研究員たちから次々と!
なんとゆゆしき問題であろうか。水野を知らんだと、そんなことでいいと思ってるのかヴォケー! 
読め、いますぐ読め、とにかく読め、読んでくれええ!
というわけで、「図書の家」では急遽『水野英子精読会』を敢行。
課題図書は、『星のたてごと』。
マンガ研究者・ヤマダトモコ氏をゲストに、「水野英子、どんだけ凄いか座談会」!
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座談会参加者 special guest:
 卯月もよ  小西優里  天野章生  岸田志野  城野ふさみ ヤマダトモコ(マンガ研究者)


:ええと、今回は「星のたてごと」(1960〜62年作品)をメインに、副読本として「白いトロイカ」(1964〜65年作品)をみんなに読んでもらったわけですが。「図書の家」の中で“ほぼ初水野”なのは、天野・岸田・城野の三人ですね。
:要するに世代的に、少女漫画を意識して読むようになった頃には既に、いわゆる「24年組」の作家なんかが台頭していて、その前の世代にまでは行き着かなかった、というような。
:当時自分のまわりは萩尾・竹宮ですら読んでる人がほとんどいなかったしなあ。
:私は、『花とゆめ』はほぼ創刊から読んでいるから、そこでの水野作品には触れているはずなんですけど、既に「24年組」全盛期のさなかなわけで…。坂田靖子先生がHPで激賞されてたりしたんで、水野先生がいかに凄いことをやっていたかっていうのは知識としては知ってるんですが。
:新しい作家も作品もどんどん出るし、過去の名作を遡るのも「24年組」あたりまでで。
:子供にはおこづかいの限界もありますし。
:大体、本が無かったよ。
:再発されても部数は少なく、品切れになったらおしまいですからね。
:生まれる前の作品だしねー。
朝日ソノラマで単行本出たとき、私まだ1歳になってない*1
:生まれる前…そうか、みんなそう? って、私も連載始まった時は生まれる前か! ぎゃー、そうかそうだよな……。
:漫画って歴史長いんですねぇ(笑)。
:だからもうさあ、「星のたてごと」とか、もっと少女漫画史に燦然と君臨してて欲しいんですよ! 文学作品とかみたいに。…という気持ちを込めてですね、今回の企画です。
:「図書の家」を読みに来てくれる方達にも、きっと私たちみたいな人多いと思うのでね(笑)。


*座談会中では基本的に敬称を略しています。

◆「星のたてごと」
『少女クラブ』(講談社)に1960年1月号〜62年9月号まで連載された、北欧神話とドイツ伝承の物語に着想を得た壮大なファンタジー。書影はダウンロード版1巻(楽天ダウンロード)

星のたてごと(1)
*詳しくはデータページへ。

*1 朝日ソノラマで単行本出たとき →朝日ソノラマ版『星のたてごと』サンコミックス1巻の初版は1968年1月発行。実際は1967年の末に出版されている。


:で、読んでみてどうだったですか?
:面白かった!! ちょうど自分的にも60年代の漫画に興味がいってて、ああ昔のも面白いなあ、ちゃんとしてるなってのは思ってたんですけど。「星のたてごと」はそういうのともまた違う衝撃が…なんというか、圧倒されたというか、凄いもんを見た!というような感じ。
:私、「白いトロイカ」「星のたてごと」を並べて、どっちから読もうかなーって考えて。やっぱり絵柄的に「白いトロイカ」のほうが抵抗なかったんで、そっちを先に読んだんですよね。で、するする読めて絵も可愛いし面白いな、じゃあ次、って「星のたてごと」読んだら…更に面白くって!!
:やっぱり「星のたてごと」は、最初どうしても古い絵柄だというのは感じてしまうんですよね。「白いトロイカ」はもう、全然違和感がないから入りやすい。
:でも、逆に言えば、「白いトロイカ」だったら、これは今でもある感じなんですよ。もちろん、こんな昔の作品が今普通に違和感なく読めること自体が凄いわけなんですけど。でも「星のたてごと」は、これはちょっと今においても他には無いな、っていう。One & Onlyな感じが私はしましたねえ。
:うん。「白いトロイカ」のほうがわかりやすい、けど「星のたてごと」は二度、三度と読み重ねていくとどんどんその凄さ、面白さがわかる感じですよね。
:布団圧縮袋のごときに、ぎゅっといろんなものが詰まってる!
:アクションもラブストーリーも陰謀もサスペンスも、っててんこ盛り。なんでこんなページ数でおさまってんのか不思議でしょうがない(笑)。
:萌えもたっぷり(笑)。
「星のたてごと」はね、やっぱりユリウス *2 がカッコいいよね!
:登場のたびにキメポーズでなー!
:やっぱマントとマスク!
:マスクいいですね〜、赤い彗星も黒いチューリップも、マント&マスクは乙女も萌えポイントですよ。
:そそりますね。
:私は黒髪のハンサムっていうのが、基本的に好きなのかも。表情もいいんですよね、男の人がね、下向いて、目をつぶっているとこがどのキャラでもカッコいいの!
:憂い顔。ユリウスはじめ、いろいろと複雑な事情や思いを抱えてるから、苦悩が顔ににじみ出るんですよね。
:あ、そうそう。苦悩している。
:ああー。かっこいいですよねー。私、ビックリした表情もスキ。
:あ、ビックリの顔は女の人のカオのほうが好きかも。ってどんなこだわりなのか?(笑)
デリラ *3 に投げ落とされたお兄ちゃん *4 のキョトンガオがなんかすごくスキだったので(笑)
:キョトンガオかわいい! たしかに!
:そうだ、キョトンガオ。
:あご割れてるのに可愛いわ(笑)と。
:あご割れは基本ダメなのか?
:あご割れ、私はちょっと苦手です(笑)
:あご割れというのとも繋がっているけど、水野先生の男性キャラって、非常にむちむちしているというか、いわゆるマッチョ体型ですよね。
:そうそう、マッチョですねー。
:肉体がきちんと男性の肉体。
:あの胸の厚さがねえ。
:逆三角形のからだというか・・・。
:昔の少女漫画というと男性キャラの体はひじょうにおざなりなもんだったりしますが、水野先生のは明らかに違いますよね。
:男性作家でも、あんまりあんなふうに描かないんじゃないですかね。
:うん、色っぽいんですね。水野先生の男性は。
「星のたてごと」は大抵胸はだけてるから、筋肉が強調されてね。
:いやらしくはないんですが。みんな、かっこいい。
:他の作品はどうでしょ。
「ハニーハニーのすてきな冒険」も読んだけど、やっぱり胸板が厚かった(笑)
:胸板もそうだけど、私は肩部分の肉付きの良い感じが、珍しいなって思って読みました。
:うん、あれは珍しいよ。
:珍しいですよねえ?セクシーで。
:水野先生って、特別、美術の勉強したってことは無いんですよね?
:してないと思う。

◆「白いトロイカ」
『週刊マーガレット』(集英社)に1964年52号〜65年34号まで連載。ロシア革命を背景にした大河ロマン。少女漫画初の“歴史もの”と言われている。書影はダウンロード版1巻(楽天ダウンロード)

白いトロイカ(1)


*2 ユリウス →『星のたてごと』の主人公リンダと恋に落ちる隣国の王子。リンダの国とは緊張関係にあり、そのためリンダに対しても最初は身分を隠していた。

↑書影は講談社漫画文庫1巻。右上のたてごとを持った男性がユリウス。女性がリンダです。

*3 デリラ →ユリウスの義妹。豹をペットにしたり荒馬を駆ったりと、おてんばで勝ち気なザロモン王国の王女様。リンダがザロモン国に漂着した際に手助けをしてくれるが、ユリウスを密かに愛していたので、後にユリウスとリンダの関係を知って苦しむ。


*4 お兄ちゃん →ユリウスの義兄、セレスト。ザロモン王の後妻である母はセレストに王国を継がせたがっているが、本人はユリウスの資質を認め、辞退を考えている。しかしリンダと出会い、リンダに恋してしまったが故に、ユリウスに複雑な感情を抱くようになる。


◆「Honey Honey(ハニー・ハニー)のすてきな冒険」
『りぼん』(集英社)に1966年9月号〜67年8月号まで連載。捨て子ハニー・ハニーが繰り広げる、女の子の夢いっぱいの冒険&ラブコメディ。書影はカラーも多数収録の〈もん・りぃぶる〉版(チクマ秀版社/2006)。



:大体、この「星のたてごと」20歳前後で始めてるんだもんね。
:そう、だから普通の、学校での美術教育はうけてるだろうけど専門的な勉強はしてなかったはず。
:連載開始が1960年1月号、ということは発売は前年12月。19歳ですね。
:ええー?そんな歳で?これを?!
:凄いねぇ。
:物凄いことです。
:当時なんか資料も少なかっただろうに…。この画力はどこから…。
:資料は基本的に映画だったと思います。画力は、実際作品を描くことで自ら向上させていったということだと思いますね。
:そう、作中どんどん絵が良くなっていく。児童漫画から少女漫画の絵になって。
:最初は足首なかったものね。
:ドレスの生地の質感とかまで細やかで。アクセサリーもただの飾りじゃなくて、きちんと高価な宝石を思わせる。建物とか背景とか今みても凄いですよね。
:お城がちゃんとお城なの。城内、城外、どこもなんかちゃんと実在感があって。
:質感とかほんとわかりますよね。あと、水野先生は馬がほんとにうまい。シャレじゃないよ!
:あはは(笑)
:馬! ほんとに上手ですよね〜。迫力あるな〜これもみんな雑誌とか映画とかそういうとこから?
:わからんよね・・・資料。
:なんか、デビュー作も「赤っ毛子馬(ポニー)」*5 って馬のお話じゃないですか。
:ああ、そうだわ。
:当時は絵は映画からすごく勉強したっていうことだし、当時って西部劇が流行ってたでしょ?
:西部劇流行ってましたねー、マカロニウェスタンとか。
:馬がたくさん。
:もともと馬がお好きなんだと思う。
:言われてみれば、水野さんのかっこいいキャラは馬っぽいと思う!
:馬っぽい、って(笑)
:馬っぽい…ああ、顔が男性の顔が青年らしく細長いんですよね。
:ちゃんとあごがある。首も太い…って、私が言いたいのは姿形がって意味ではなく!(笑)。なんというか、優美でたくましく時に猛々しい。そういうイメージが馬っぽい、っていう。
:あ、なるほど!
:ユリウスにしても、凄く優しくて強くて、リンダに生涯の愛と忠誠を誓ってるわけですけど、最後の方に、ユリウスとリンダが対立するところ*6 があるじゃないですか。リンダがユリウスに、もう戦はやめてみたいなことお願いするんだけど、ユリウスが…
「できぬ。」
:そうそうそうそう。
「心で平和を望んでも 王の冠がゆるさぬ。」
:それそれそれそれ。だって、ここまでリンダの為なら火の中水の中、ってなユリウスだったのに。そのリンダがお願いしているのに!! あれだけ恋い焦がれたヒロインの懇願を、却下したよこのひとー!と(笑)。
:カッコいいー。あの苦悩が。「男性のかっこよさ」が、見た目だけじゃない。
:女の子に都合良く優しいとかだけでもない。超萌えですよ!
:そういうところに萌えるのねえ。
:ステレオタイプのようでいて、深い。しかもそういうのが全然説明くさくないのが凄い!
:短く、深いことを描こうとしてる。北欧神話やニーベルンゲンの影響によるものなのか、映画の字幕とかから学んだ技術なのか。あるいは手塚なのか。とにかくネームもストーリーも、荘厳な感じがしつつわかりやすくて、ちゃんとひらがなで小学生に読める。それでなおかつ深いんですね。
:そうだよなーこれを小学生が普通に読んでいたんだよなあ。凄いことだ。
:当時は、「子供向け」自体が少ないから、作ってる側も子供向けのものを見て子供向けのものを作ってるわけじゃないんだよね。
:神話やオペラ、バレエなんかの教養が普通に取り入れられてますよね。
:加減がまだわからない(笑)。いや、それはいいことなんだけど! 子供向けだからこんなもんでいいだろ、ってことがなくて。
:可愛い5頭身くらいの絵で始まって、可愛いのに話は結構えげつない(笑)。そういう、絵とのギャップもあるのかなあ、ちょっとびっくりしつつ気がついたら夢中で読み進めちゃいました。
:そうそう、みんなそれぞれ黒いとこがあったりすんですよね! ヒロイン・リンダでさえも清廉潔白ではない。
:できのいい義理の弟に王位を譲るつもりだったお兄さんが、リンダ絡んだとたん黒い気持ちになっちゃうとか・・・。
:そうか、内面がちゃんとある感じがするのは、キャラの黒い部分が描かれてるからだ。なるほど。
:神様でさえ黒い。
:神話の神様はけっこう悪いヤツいるよ?(笑)
:神に関してなんですが、北欧神話の何に驚いたかといって「神様にも終わりがある」ということだったと水野先生は言ってらっしゃいました。
:ワグナー。『神々の黄昏』ですね。
:その世界観が「星のたてごと」には反映されてるわけですね。大きな物語が好きなんですよね。そこが萌えのツボなの、水野先生の。
:大きいですよねー物語。壮大で劇的。ぎっしり詰まってて読んでも読んでも終わらないの〜。次から次へと事件が起こって最後の最後までホントに終わるのか!って。
:お話はめまぐるしくていきつくひまもなく・・・やっぱ2年半つづいた連載なので、一気に読むとちょっと疲れるほど展開していくんだけど、全体を通しては矛盾の無い感じ。
:それは思った。物語がぎゅっと詰まりすぎているせいか、私は正直、初読時はちょっとしんどいなって感じたんですよね。「白いトロイカ」のほうが絵も安定しているし物語もすっと抵抗なく入れて、面白く読めたんですよ。でも二度目読んだ時は全然そんなことなくて! 一回読んで流れ分かってるとじっくり読めて、背景の描き込みとかもしみじみ楽しめて良かった〜。




星のたてごと(2)
↑書影はダウンロード版2巻。リンダのドレスのドレープを見よ!



白いトロイカ(3)
↑書影はダウンロード版3巻。
“水野先生は馬がお好き”

*5 「赤っ毛子馬(ポニー)」 →1956年『少女クラブ』6月号掲載。

追記*デビュー第二作目「黄色いリボン」(56年『少女クラブ』8月号別冊付録)も西部劇を素材にしている。
また、当座談会は2007年5〜6月に収録したものであるが、その後、作者本人から“デビュー作は西部劇が好きで馬が好きだったから描いた”との発言があった。(7月22日東京・森下文化センター:「〜永遠の名作〜時代を変えた少女マンガ」第2回「スペシャル対談 Vol.1」にて水野英子と丸山昭(元「少女クラブ」編集長)の対談より)


*6 ユリウスとリンダが対立するところ →eBookJapanダウンロード版4巻P104。講談社漫画文庫版2巻P267。



:気楽にさらっと読めて消費できるような漫画とは全然違う。
:水野作品は消費するものではないの。作品の完成度がすごく高くて、密度が濃い。週刊誌時代の、描き飛ばしの作品ですらそうなんです。
:むしろ二度目、三度目が凄い。どうしてこの話がこの頁数にはいるんだろ?とか、どうしてこの場面がこういうことを意味するって問題なく伝わるんだろーとか、不思議でしょうがないですからね。
:そだね。それは思うね。間に一コマはさまってるみたいな感じがすることあるもんね。
:そういうことをいちいち考えて読むのも超楽しい。何度でも楽しめる!
:だよねー。でも、最後は意外にあっさりなのよね〜。あの最終回は当時の女の子は納得だったのかな?
:ラストは急に終わった感じは確かにしたけど・・・たぶんリアルタイムで読んでた人はあまり感じなかったんでは?
:どうかなあ? 私はいっとう最初に読んだ少女漫画認識が、いとこの持ってたサンコミックスの「星のたてごと」で。小学校の低学年。で、サンコミックス版でいうと三巻のあたりに、コミックスで描き直された部分があって。当時はもちろんわかってなかったんですけど、絵がそれまでと微妙に違うせいもあったのか、急に話にすんなり入れなくなって、そこを過ぎると話がすぐ終わっちゃう(笑)。そんなだったから、当時、終わりは理解できなかった記憶がありますよ。
:まあ小学校低学年だからね(笑)。
:でも、もちろん面白かったし、凄く大人の漫画だ!ってことは思ったなあ。大人の漫画、っていうのはイコール、出てくる男の人が、大人だってことなんですけど。
:私が水野作品と出会ったのは、小学校の4・5年くらいで、「エーデルワイス」って短編だったんですね。何かの記念で、学年誌に載ってて。70年代の後半で、水野先生の勢いも一段落ついたころだったんですけど。
:え、学年誌に?
:リストによると「エーデルワイス」の初出は67年。再録だったんだね。
:で、内容がね。二人の少年と一人の少女がいて、そのうちの一人、ちょっとひ弱な少年が主人公なんですね。少年は二人とも少女が好きなんだけど、結局主人公のA少年が失恋、B少年と少女がくっつくのね。でも後に大人になって二人が結婚する段になって、Bは死んでしまうんですよ。ああこれでAとくっつくんだな、と思ったら違うの。一生結婚しないの! 子供心に「なんだそれ!」って(笑)。
:あー、その「なんだそれ」凄いわかる〜。
:小さかったから、その作品の味わいがわからなかったんです。これから恋する予定の年頃だったから(笑)。
:すんなりいかない恋愛が多い? 「星のたてごと」「白いトロイカ」も、確かにどこに着地するのか最後までわかんなかったよねぇ。
:予定調和じゃないんだね。
:そうだと思う。当時の私には少し大人っぽすぎたんだけど。でも、ずっと忘れられなくて、作家の名前も覚えていました。
:お話に魅了されたんですね! 私も「ヴィクト−ル街31番地」を今日読み返してたんだけど、そのパターンと似たのがありました。
:でも、ミュージアム入ってすぐの頃に「白いトロイカ」を読んで、今度は「何、この凄い漫画はっ!」て、感嘆の「なんだこれ」に!!
:読み手のほうが追いついた(笑)。小西さんも、小学校低学年でなければ、「星のたてごと」の終わりにも納得がいっただろう(笑)。
:まさに、その小西さんよりちょっと上の世代っていうのが、後の「24年組」世代ってことですよね。坂田靖子先生のお話にも、「当時、水野先生の凄さを肌で感じた人はみんな漫画家になってしまった」ていうのがありました。
:いや、私は昭和35年生まれだから「24年組」とは10年違うんだけど(笑)、「24年組」の先生たちはまさに「銀の花びら」から「星のたてごと」の 連載時期が小〜中学生ですよね。そりゃハマるでしょうね!
:私、国会図書館に、『少女クラブ』を一気読みしに行ったことがあって。雑誌をね、そうやって流して読むと。かならず目が留まるの、凄いのがある!って。
:わかる。何かもう、放ってるもんが違う。何がどう凄いのかが説明できなくても、他と違うってことだけは子供でも絶対わかる。
:真似せずにはいられない。こういうお姫様を書きたいって思うし、そこからいろいろな想像が膨らむし。
:冒頭のモブシーンとかもね、今でも読める手塚先生と水野先生の作品を見て、当時のはみんなこのレベルで描けるのが普通だったのかって考えてしまいがちだけど、違うよ〜? こんな手のこんだ、こんな質で描けてるのって、 暴言承知で言っちゃうと手塚と水野しかやってないですよ。ドレスのひるがえる感じとか、手塚でさえやってない、絶対独自に編み出しているし。そんなことを20歳の女の子がやってて、みんなそれを見てたら、そりゃー凄い凄いってなるよ!
:たとえるなら北島マヤを目の当たりにした気分ですよね。
:ヒデコ、おそろしい子……!!(笑)。でも、ほんとそう。ただ、モブシーンはね、やっぱ石森とか赤塚とかもうまかったです。でも、ドレスの指摘はそのとおり!と思います。あと、キャラのかわいさという点では、やはり水野が目立つんですよね〜。
:このクオリティのものがぼーんっ!て目の前に現れたら、そりゃあ後への影響も納得ですよねー。
:当時の読者や、後続の漫画家さんにどんだけの影響だったろう!ってしみじみ思ったよー。
:なんかもう1ページ1ページ、ポーズやら構図やら、ドレスのドレープやら「ああ、こういうふうに描けばいいのか!!」って読んでただろうなあみたいのが想像できますよねえ。
:後続の少女漫画家については、手塚や石森からの影響を挙げられることが多いんだけど、具体的に直接影響を受けたのは水野英子からだっただろうと思うんです。作家としての立ち位置なんかも含めて、みんな憧れていただろうなあと思うし。萩尾さんとか、一条さんとか、池田理代子さんといった、水野さんの後輩マンガ家さんたちのインタビューとかをマメに読んでいると、その様なことを発言してらっしゃるの。
:こうしたポーズや全体の構図も本当にかっこよく決まっていて、こういうのも映画の影響ってあると思うんだけど。動的なんだけども、決めの絵としても成り立ってる。このあたりはやっぱり水野開発だと思うんですよー。たとえば「デリダ、リンダをたすけること」*7 の上のコマのように、重要なシーンを華麗に決めている大コマっていうのは当時の漫画では少なかったと思う。スタイル画のような絵をページの横に挿入するというのが始まった頃ではあるんだけど。このコマとか、スタイル画の替わりともいえると思うんだけどね。

◆「エーデルワイス」
1967年『週刊マーガレット』22〜24号掲載。
珈琲文庫『セシリア』(ふゅ〜じょんぷろだくと/2004年)にも収録されている。

◆「ヴィクトール街31番地」
1976年『花とゆめ』4号巻頭70ページ読み切り作品(白泉社)。雑貨屋を営む祖父と孫娘を中心に、家族や街の人たちとの交流、移りゆく時代の流れを暖かい目線で描いた名品。


私家版『ローヌ・ジュレエの庭』(夢時館/2000)にも収録されている。




◆「銀の花びら」
緑川圭子原作。『少女クラブ』1957年12月号〜59年12月号まで連載された西洋ロマン作品。15才から2年間ほど同誌にカット絵を描いていた作者の初めての連載。可憐で凛々しいヒロインとテンポの良いオリジナルな物語が大人気を得て、長期連載となった。
書影は講談社漫画文庫2巻(全3巻/講談社/2002)。

*7 「デリダ、リンダをたすけること」 →eBookJapanダウンロード版4巻P119。講談社漫画文庫版2巻P281。リンダの前に膝をつきかしづいたセレストがドレスの裾に口づけて告白するシーン。リンダは横を向き、セレストは背中を向けているのだが、三角形の安定した構図にドレスのドレープ、セレストの波打つマントが美しい。



:ああ、私読んでてちょっと思ったんですけど。こういう、いわゆるぶち抜きの絵って、今だと普通ページの…見開きでいえば、左右の端に来るように描きませんか? 右ページの右、左ページの左、みたいに。「星のたてごと」って、そうじゃないところが結構あって、それもすごくかっこよく挿入されてて良いなあって思ったんですけど。これは当時はよくあったんですか?
:いろいろかなあ。スタイル画の挿入というのは、60年当時だと手法が開発されて間もない頃なので、まだいろいろな形が混在している。でも、ページの左右に配される感じがなんとなく定着していった頃ではあります。
:連載当時と単行本時で左右が同じに収録されてるとは限らないしね(^^;)
:え?
:ページ順はそのままじゃないの?右と左が変わったりもあり?
:それが、あったのだ。今はないけど、あの時代は……。
:気になって少し調べてみたら「星のたてごと」は連載時とコミックスではかなり左右違いになってます。このあたり、詳しく調べてあとでまとめたい!
:しかし…それはちょっと漫画家さんには困ったことなんでは。構図を掲載で考えてるでしょーに!
:そうだね、でもそれより収録の都合が優先されたんでしょう。
:ひえ〜〜。そうなのかああ。
:まあそのへんの事情は除外しても、スタイル画をどこに入れるかというのはまだ定型化されてはいなかった。
:全身を綺麗に描く方法というのは、当時いろんな形でいろんな作家によって試されていたんですけど、水野英子の偉いとこは、それが雰囲気で描かれているんじゃないんですね。必ずそうしたロングアップがストーリーの効果に組み込まれている。
:ああーそれはわかる。ただ唐突にぶち抜き、じゃないんですよね。
:そういうのがね、私すごく萩尾さんは直系だと思います。
:そう、そしてそれが実は手塚直系ってことなんです。
:そうそうそう! そのラインものすごく感じます。
:ただ、こういうことっていうのは、いつも最初に直感的に始めた人が先にいるんですね。で、それは評価の対象になりにくい。だからそこを無視して、手塚が始めた水野が始めた、って言うのはよくないんですね。
:なるほどー。確立した、とかなら言えるのかな?
:定着させた、とか、かな。スタイル画に関しては、応用して効果的に使ったとかかな。そういえば手塚は、1963年から『なかよし』で連載された三作目の「リボンの騎士」でスタイル画を描いてるんですが、後にストーリーに組み込まれているもの以外は、全部描き直しているんです。ストーリー性を大切にしていたので、流行とはいえ自身はあまり興味もなかったし、お話に関係のない絵が作中にあるのがガマンできなかったんだと思う。
:なるほどー。
:で、そろそろ締めに入りたいのですが(笑) こうしてみんなで話してみてもわかるとおり、「星のたてごと」って、いろんなところが新しい。私ずっと、ここのところ水野先生の後期のものとかを読んでいたんですけど、そういうのと比べても、画面的には「星のたてごと」が一番新しいことをしてたんじゃないのか? って思うほどですね。実験的というか、柔軟というか。
:うん、水野先生は、賞も獲ってさあこれから!っていう絶頂期ともいえる70年代に入ってすぐあたりに、出産育児が重なってしまって。完全にではないけれども作家活動が困難な時期があったんですね。だから、そのあたりから、たくさん描きながら実験的なことを試していく、というのができにくくなってしまったんだと。
:少ない作品数でも、より完成されたものを描きたいという。完璧主義みたいなところもあったんでしょうね。
:当時の育児は、今とは比べものにならないほど大変だし。シングルマザーとなればなおさら。
:そうですね、新しいものを吸収していくのを環境が許さなかった。クオリティは高い、けれども、ちょうど同じ時期に来た、少女漫画が新しい技術や手法を取り入れて激変していった時代の流れとは少し離れてしまったところもあると思います。
:やっぱり新しいものにはみんなパッと目がいくし。
:70年代の、その変化はただの変化じゃなかったですしね。ビッグバンといってもいいくらいのものだったから。
:でも、それ以前の水野先生のいろいろな作品が、その激変の基礎土台には確実になってますよね。今回読んで本当にしみじみ実感しました。
:それはもちろん!
:70年代の激変のムーブメントからは少し外れたところにいたことは事実なんだけれども、今となってはそうしたことももうあまり重要ではないですよね。周りと比べてってことではなく、水野作品を水野作品として楽しんでいくことができる。初期も近作も、作品のクオリティは本当に高いですから。
:うん、今回読んでみて本当に面白かったし。勢い、他にも手を出して。「ハニーハニーのすてきな冒険」も、ほんと可愛いかった〜。
「ハニー」いいよね〜、楽しい、可愛い!
:ひとコマひとコマが可愛いのよねー、切り取ってシールにしたいくらい可愛い。
:うわー嬉しい。感涙。この中でいちばん年若い城野さんにそういってもらえて、この企画やってよかった! とホントに思うよ〜!
:もっとたくさんの人に読んで欲しいっすよねえ、ほんとに。本が手に入らなくても、ネットにはダウンロード版 *8 もあるので!
:ダウンロード版は、今のところ「星のたてごと」「白いトロイカ」のみですが、でも内容的には素晴らしいですよ。これだけですっごい資料。サイズ大きくて鮮明だし!
掲載当時のカラーもそのままで、扉絵もたくさん入ってる *9 しね!
:へええ、それは凄い!
:コミックスとも全然違うから、既読の人も本持ってる人も落とすべき(笑)。だって安いし! 一巻420円。
:安っ!!
:安い〜〜!
:別にeBookJapanの回し者なわけじゃないんですけど(笑)。でもほんと、おすすめです、ダウンロードすぐですよ〜。
:漫画は、作品読まないと始まらないっすからねえ。私らがいろいろ言うより、作品読むほうが全然いいに決まっている!!



星のたてごと(3)
↑書影はダウンロード版3巻。リンダの美しい立ち姿。



◆「Honey Honey(ハニー・ハニー)のすてきな冒険」
書影は双葉文庫版全2巻(双葉社/2002)。可愛いハニーのファンは多い。

 

*8 ダウンロード版 →eBookJapan
eBookJapan提供で、楽天ダウンロードYahooコミックからも購入できる。試し読みもできるので、ぜひどうぞ。金額が異なるのは購読できる有効期間が異なるため。ご注意ください。


星のたてごと(4)
↑書影はダウンロード版4巻。ダウンロード版の書影も掲載時の扉絵や付録表紙からアレンジされたものです。

*9 掲載当時のカラーもそのままで、扉絵もたくさん入ってる →連載は全33回、但し同一の号で掲載ページが分かれ、扉絵がそれぞれ付く場合もあった。ebook版は扉絵として34枚確認。うちカラーが23、2色が 7、モノクロが4。2002年の講談社漫画文庫版には扉絵はほとんど収録されていない。



最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

「図書の家」の水野英子研究は、これからどんどん進行の予定。
皆さんもぜひ、今、この時代に水野英子世界を楽しんでみてください。
きっと新たな発見や感動があることを保証いたします!
水野英子先生公式ホームページ「水野英子の部屋」に、「星のたてごと」についてのコメントと扉絵画像も掲載されています。
〔2007年9月24日注釈追記


●書影はamazonアソシエイトプログラムbk1ブリーダープログラム、楽天ブックスアフィリエイトプログラム(A8.net)を参照、または所蔵本を撮影しています。

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