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日々の折々、図書の家研究員がおすすめ漫画をナビゲート。今回は「16ページの女王〜萩尾望都の短編〜」をテーマにセレクトしてみました。
わずかなページにぎゅっと圧縮された濃密な世界。久しぶりの新刊に合わせて、新旧の萩尾世界をじっくりご堪能あれ!
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ビアンカ
萩尾望都

[初出]1970年
『週刊少女フレンド 』"サインはV"特集号



 何枚も何枚も描いたという森で踊る少女のシーン、それを中心にすえて作り出された物語。作者の想いがそのまま語り手クララの気持ちとなって読者に語られる。少女の絵を描かずにいられない…と。過去の、忘れられない思い出を振り返る形で、今に続く情熱を語らせるという、わかりやすい、ありふれたとさえ言える構成ながら、平凡な感じ、読み飽きた感じを抱かせない。わずかデビュー5作目。その後の作品に見られるモチーフがいくつも埋め込まれた原石のような16ページである。

半神
萩尾望都

[初出]1984年
『プチフラワー』1月号




 
あまりにも有名な奇跡の16ページ。いや確か24ページはあったはず。と、幾度数え直したか。やはり16ページしかない。過不足なく計算され凝縮された物語。その中にどれほど濃い時間が流れ、どれほど深い思いが刻まれているか。色んな人がお薦めしてて逆に手を出しかねてる人、ぜひ自分で見て読んで欲しい。そもそもなぜ作者はこれを16ページで描くと決めたのかな? 100ページにだって出来るのに。16ページにすることで生まれる効果を見定めた上でのことならやはり驚くのです。



長靴をはいたシマ猫
萩尾望都

[初出]2006年
『猫本』
*書影は所収本



 『猫本』に掲載された16頁ネコ漫画。ネコ漫画と聞いて想像していたモノと180度違うもので、びっくり。なんと、奥さんと電力会社の訪問検査員との昼下がりの情事です。シュールなエロ漫画です。なんだろうこの読後感のもぞもぞした感じは…可愛くてふにゃふにゃしたニャンコじゃなくて結構肉付きしっかりの猫さんです。猫好きって不可解ニャ。シュール。

ゆれる世界
萩尾望都

[初出]2006年
『月刊flowers』7月号
*書影は所収本




 16頁って凄いね、と思ってしまう。主人公である男性の半生が読めちゃうんですよー。たった16頁なのに彼の価値観とか性格とかが見えてくる。不思議。でも疑問もいっぱい。どんな羽根なんだろう? 濡れても平気なんだよね?柔らかいの?ぼろぼろになったりしないの? ああ、考えだすと止まらない〜。奥さんがなにげに素敵なのよ、是非注目してくださいませ。


白い鳥になった少女
萩尾望都

[初出]1971年
『別冊少女コミック』12月号
*書影は所収本



 アンデルセン童話が原作。沼地で新しい靴が汚れるのを嫌い、母へ届けるパンを踏みつけたインゲは沼の底へ沈む。罰も怖いけど悔い改めないインゲの高慢さはもっとコワい。しかし、ある少女の涙が彼女を救う…この無垢な涙は私的には全作品中でも屈指です。また、真っ暗な沼の底から空の高みまで一気に昇るといった演出は、読者の目線をアップダウンさせながら物語を深みへと進行誘導する匠の技。初期といえども見所満載です!

妖精の子もり
萩尾望都

[初出]1972年
『別冊少女コミック』5月号
*書影は所収本




 爽快な風、新緑の葉の間からこぼれる光。巻き毛の少年とちょっと生意気な少女との出会い。少女の日傘や空気をはらんだフレアスカートにも初夏の日差しがくっきりと陰をつくる。小さく割られたコマの奥にはまるで覗きに行けそうな風景が広がる。目が釘付けになる魅力の秘密をどうしても知りたくて、真似して描いてみることが何より嬉しくて楽しくて。こんな漫画を描きたいと願う多くの後継者を産んだ、一連の初期作品のひとつ。


くろいひつじ
萩尾望都

[初出]2007年
『月刊flowers』1月号
*書影は所収本



 思春期の私には「群れの中のくろいひつじ」というのは一つのキーワードだった。集団の中で同じようにしようとしてもどこか浮く自分。普通にしていてもどこか違和感や孤独がつきまとっていた。思春期をとっくに過ぎた大人になってもいまだ、どこかそうした部分は残っている。今回、音楽一家の中の異分子である長男の心理描写を通して、当時の気持ちを思い出して切なく、そしてラストの救いにほっと息をついたのだった。

スロー・ダウン
萩尾望都

[初出]1985年
『プチフラワー』1月号
*書影は所収本




 昔読んだ『スター・レッド』の中で目からウロコだったことの一つに、五感が違えば考え方も違ってくる、というのがあった。この作品では五感をできるだけ遮断して生活したらどうなるのか、というのだが。見てる世界がぼんやりぼやけ、音も聴こえず、触感もあまりない…となれば、人として生きてる実感は欠落していくだろう。バーチャルと現実の境界を失いがちな現在に、非常に示唆的な展開の名品。これが既に22年も前の作品だとは!!


左ききのイザン
萩尾望都

[初出]1978年
『SFファンタジア』4号
*書影は所収本



 それぞれに謎めいた、たった三人の登場人物。SFでありながらサスペンス・ミステリーでもあり、登場人物たちの思惑が絡む人間ドラマでもあり。無人の星プロメを舞台に繰り広げられる、上質の芝居のような一編。淡々と読む者を侵食する、底の見えない不安、絶望、そして孤独。知らず一緒に砂嵐へと読者ををも迷い込ませてしまうその技は、圧巻の一言。読後、この砂の惑星を吹きすさぶ風の音が耳鳴りのように離れなくなる。

ラーギニー
萩尾望都

[初出]1980年
『SFマガジン』2月号
*書影は所収本




 “ラーギニー”はインドの女性音楽の意だが、この一編もさながら音楽のよう。イントロは気になるブレイクから。エキゾチックなタンブーラの旋律は、初めは豊かで美しい旋律を奏でているのだが、その甘い音楽に酔っているうちに、だんだんと曲調が変化して、不穏な不協和音が混じり出していく。緊迫の展開、そして一気にエンディングまで。物語も音楽も、あるいは世界も人生も。不可逆で、また同じフレーズを循環していくのです。


作品紹介を担当するのは
 卯月もよ  小西優里  天野章生  岸田志野  城野ふさみ

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