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懐かしい時代~古き良き恋~
『鎌本健一、十五歳』加藤冬紀

 作者の加藤冬紀はBLという言葉が普及する前の、いわゆる『JUNE』の人だ。誰と語り合うこともなく気に入った作家さんを秘かに一人で追っていた私が密かに好きだった作品の一つ。この作品では多分に"バンカラ"の伝統を残した男子校を舞台とする。現代を舞台にしつつ、その伝統には旧制高校の匂いがある。出自"田舎の文学少女"の私にとって伝統ある旧制高校とくれば、福永武彦の『草の花』。そして『草の花』とくれば萩尾望都の『トーマの心臓』にもつながってくるかなり精神性の高い世界。あるいはトーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』の世界?・・・設定だけでぐっと掴まれるものがあった。あったのだが・・・。
 小学校の時に出会い憧れを抱いた高校生を追いかけるように進学校である男子校に入学、そこの寮に入る主人公・通称カマケンこと鎌本健一。伝統が"バンカラ"だけに入る寮はおんぼろ。廊下は踏み抜かれ、そこから伸び放題の草が覗く。あてがわれた部屋は狭い二人部屋。いいことも悪いこともできやしない。これぞリアリティとはいえ、ロマンティックには程遠い。この辺で"田舎の文学少女"は福永武彦の世界というよりは北杜夫の面白エッセイの世界だな、と認識を修正したのだった。そもそもこの作家は独特のゆるやかなテンポ感を持ち、全体に"ひょうげた"空気を漂わせるところが魅力だった。
 カマケンは子どもの頃から「可愛いー!」と騒がれるくらいなのだから、設定としては美少年なはず・・なのだがしかし、性格が耽美を背負ってないので彼の日々の心情描写はどこかおかしい。女顔、カマケンと言われるのを嫌がりながらも、普通に同性である大野先輩に惹かれていき、そしてそのことに深刻には悩まない。大好きな先輩には過去にとても大事な人がいたと聞かされて、凹んで涙が溢れてもどうにか立ち直って、明るくまた先輩に向かっていく。この悩まなさが主人公の魅力でもある。
 一方でカマケンの想い人である大野はバンカラな格好に不似合いなマウンテンバイクに乗り、天然系の性格。かなりな奥手だがそれには理由があった。彼は中学時代の経験から心に傷を抱えてカマケンに心惹かれながらも何もできない。二人きりのキャンプで酔いつぶれたカマケンの寝顔を切なげに見、物憂げに一人ビールをあおる。言葉では語られない大野の心情こそ思春期ならではの恋の悩みや痛みの部分なのかもしれない。
 二人の恋は遅々として進まず、もう一歩踏み込んだ関係を望むカマケンの初キスも初体験も、本人はともかく大野にとっては非常な葛藤の末のものだった。恋に素直なカマケンの心情を近景に描き、トラウマを抱えセックスに臆病な大野の繊細な心情を遠景にしたことが、傷つきやすい思春期の恋をユーモラスに描くことに成功させた。紆余曲折しながら大人になっていく少年達。真剣なのにどこかコミカルな等身大の学生生活が、気負いのない丁寧でシンプルな絵で描かれた佳品。じれじれした恋の心理がツボにくる私にはこの作家のどこか力の抜けた飄々としたおかしみが堪らない。
 入手困難本ではあるけども、是非読んでみて欲しい作家なのだ。

加藤冬紀(かとう・ふゆき)

『鎌本健一、十五歳』上巻・下巻 ジュネ1994-95 ヒット出版社

| Copyright 2008,01,14, Monday |written by 天野章生 | trackback (x) |

 

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